感染症予防に関して
現在、新型コロナウイルスの感染が拡大し、社会に不安と混乱が起きています。新型ウイルスという未知の脅威ではありますが、そもそもウイルスをはじめとする「感染症」とはどういうものなのでしょうか?今回は感染症とその予防についてお話します。
そもそも感染症とは?
感染症とは空気中や土壌中等に存在する「生物」が体内に侵入、増殖し、様々な症状を発症することを指します。
この「生物」とは、よく聞かれるウイルスや細菌などのことを言います。これらの違いは、大きさをはじめ様々な差異がありますが、ひとえに種を増やすために生物に寄生します。
ウイルス・細菌は生物の体に侵入すると、正常な細胞を攻撃し、増殖をしていきます。当然、人の体にとって異質なものであるため体の防御機能はこれらを排除しようとします。これら一連の流れで生じる種々の症状が発熱や、鼻水などで現れます。この感染から諸症状を引き起こす疾患のことを「感染症」といいます。
どのように感染するのか
細菌やウイルスには非常に多くの種類が存在します。種類によって移り方が異なったものがあり、この移る筋道のことを感染経路といいます。既に感染症にかかっている人や、症状は出ていなくても病原体を持っている人、このほか虫や動物といったもの、吐しゃ物等の汚染されたものが感染源となります。
・飛沫感染
感染した人がせきやくしゃみをした場合、口から病原体を含む極小の水滴が飛びます。この水滴は早いもので時速にして約25㎞のスピードで飛び、約1.5メートルで落下するといわれており※1、この飛沫が粘膜に接触してしまい(目に入ってしまう、もしくは吸い込んでしまう)感染することを「飛沫感染」と言います。主にインフルエンザや風邪などがこの感染経路に該当します。
・接触感染
細かく分けると様々ありますが、主に汚染された物などに触れることで感染することをいいます。汚染されたものとは、感染した人自身が 触れた場所にウイルスや細菌などが付着したもので、そこから直接的に感染したり、触れた手で目や鼻、口に触れたりすることで感染します。主な感染症としては、インフルエンザやノロウイルスなどが存在します。
・空気感染
感染した人などから排出されるウイルスや細菌が空気中に浮遊し、このウイルスや細菌を吸い込むことで感染するのが空気感染です。性質上、距離が関係なく同じ部屋に入っただけで感染する可能性があります。主な感染症は、結核、麻疹、水疱瘡などがあります。
・経口感染
感染性を持ったものを飲食することで感染する経路を言います。食中毒などが代表的で、腸管出血性大腸菌(O157)やノロウイルスなどがあります。
予防方法
・手洗い/うがい
手洗い/うがいはウイルス・細菌を除去する初歩の方法です。外出から戻ったときや食事の前など、こまめにすることで予防につながります。大切なのは適切な方法を実践することです。
・除菌/消毒
感染症の人との接触や、電車等不特定多数の人が利用する公共施設を利用した際には、自身の手指やカバン等使用したもの※2、自宅ではテーブルや椅子など、よく触ると考えられる場所を除菌・消毒すると予防効果が期待できます。一方で、除菌薬も万能ではなく、効果のあるウイルス・細菌と効果のないものがあるため、手洗い・うがいと併用することが大切です。また、汚染物(吐しゃ物等)にはハイター(次亜塩素酸ナトリウム)を使用するなど、製品を使い分けることも予防につながります。
・換気
上記の感染経路にあるように、ウイルス・細菌は空気中に浮遊している場合があります。自宅や密閉された空間では、時々窓を開けるなどして換気を行うことで除去することができるため、定期的な換気は効果的です。
・予防接種
予防接種は発症しない程度に弱められた細菌やウイルスを注射することで、体内でその病気に対する防御(免疫抗体)を作り、感染を予防・重症化を防いだりすることを目的として行っています。決して100%感染を防ぐことができるわけではありませんが、予防としての大きな効果を期待できます。
・マスクについて
ニュースではよく取り上げられていますが、マスクをしているから感染しないというわけではありません。正面からの直接的な飛沫等は口・鼻のみ暴露、吸引を避けられますが、目や横からの暴露、マスクの隙間などから侵入してしまう可能性があります。また、ウイルスの大きさは0.1μm程度であるため、よく市販されているPM2.5対応マスクでは防げない場合があります。(PM2.5粒子は2.5μmでウイルスの約25倍の大きさ)
一方で正面からの飛沫を防ぐほか、自身のせき・くしゃみの飛沫を避け、他人への感染を防ぐという意味では有用 です。大事なことは「過信しない」ということです。今現在マスクの品薄状態が続いていますが、「マスクがなければ感染してしまう」ではなく、マスクはある程度の感染を防ぐだけで、上記にある手洗い・うがい・消毒を徹底してこその感染予防といえます。(マスクについてのお願い)
コロナウイルスに関して
今現在、世界中で蔓延しているコロナウイルスは新型のウイルスであるため不明瞭な部分が多いですが、今現在わかっている特徴を列挙します。
・感染経路は飛沫感染、接触感染で感染
→閉鎖した空間や2m程度の距離で多くの人と接触する環境では、咳やくしゃみなどの症状がなくても感染の可能性があります。ニュースでも報じられている「3密」をさけることが予防となります(密閉空間・密集場所・密接場所)
・特効薬はまだみつかっておらず、効果があると期待されている薬剤も誰にでも使用できるものではない(例:妊婦には禁忌の薬剤や副作用があると懸念されるものなど)
・潜伏期間は1~14日(平均約5日 )
・症状として、37.5度以上の発熱や呼吸器症状が1週間前後つづくことが多く、倦怠感などの症状を呈する→約8割の方は軽症で経過し治癒しますが、重症化した場合は季節性インフルエンザと比べて死亡リスクが高く、特に高齢者や基礎疾患をお持ちの方では重症化してしまう可能性が高いと報告されています。
もしこれらの症状が発症し、感染が心配される場合は、最寄りの保健所などに設置される「帰国者・接触者相談センター」 にお問い合わせください。
最後に
ウイルスや細菌などと言ったものは目に見えず、漠然とした恐怖があると思います。ニュースでは連日新型コロナウイルスについて報道されており、当院でも移植を見合わせる等多大な影響を受けています。様々なメディアから情報の混乱や錯綜が見られる中で日々ご不安かと思いますが、過剰な心配をする必要はありません。予防法をしっかりと理解し実践することで高い効果を得られることは間違いありませんし、ウイルスがどういうものなのか知っていれば漠然とした恐怖ではなくなります。大事なのは相手を知り、落ち着いた行動をとることだと思います。日々の生活だけでなく、不妊治療においても「健康な体」が最も大切な部分となってきます。予防をしっかり行い、感染症に罹患しないよう気を付けましょう。
※1Nishimura H, et al. A new methodology for studying dynamics of aerosol particles in sneeze and cough using a digital high-vision, high-speed video system and vector analyses.PLoS One. 2013 Nov 27;8(11):e80244.
※2 使用する除菌/消毒製品によってはカバン等が変色、変形等がある可能性があります。使用してもよいか製品の仕様書をご確認ください。