体外受精
体外受精は 1978 年にイギリスで最初に行われました。
日本においては 1983 年に最初の成功例が報告されて以来、現在では生まれてくる子供の 14 人に 1 人が体外受精での妊娠と報告があります。(2019 年)
腟から細い針を穿刺し、卵巣から卵子を採取(採卵)、管理された環境下で精子と受精させ、子宮の受け入れる時期に合わせて受精卵(胚)を子宮にもどす(移植)方法です。
当院では、個々に合わせた“パーソナライズ IVF”を考えています。
- 卵管性不妊:卵管に問題があり、卵管に対する治療を行っても妊娠が困難な場合
- 男性不妊:精子に問題があり、人工授精などでも妊娠に至らない場合
- 免疫性不妊:抗精子抗体陽性のため、妊娠が成立しない場合
- 原因不明不妊:さまざまな検査、治療によっても原因が特定できない場合
現代の医学をもっても不妊原因を特定できない事があります。
35 歳を過ぎた頃から妊娠率は急激に低下します。早めの step up をお勧めします。
- 一つの卵子の治療では効率が悪い為、卵子を複数成長させます(卵巣刺激)。
- 排卵前に卵子を卵巣から体外に取り出します(採卵)。
- 取り出した卵子と精子を出会わせます(受精)。
- 胚(受精卵)を管理された環境下で成長させます(培養)。
- 成長した胚を子宮に注入します(胚移植)。
- 移植後のホルモン補充をします(黄体期管理)。
不妊原因はカップルによって様々です。同じ体外受精といってもその治療方法が変わります。
卵巣刺激
基本的に自然の周期で排卵は1つしかしません。体外受精を行う場合、効率を上げるために多数の卵子を成長させる卵巣刺激を行います。卵巣機能が十分な場合、内服や複数回の注射により卵巣に多数の卵子を作らせます。
卵巣機能が低下している場合は卵巣を刺激しても複数の卵子は成長できないため、余計な刺激は避けます。
卵巣の状態によって卵巣刺激の方法も変わります。具体的な刺激方法のスケジュールは、カウンセリングや診察の際に詳しく説明します。
受精方法
受精方法には、卵子と精子が自然に出会って受精する通常媒精(精子を振りかける)という方法と、卵子に対して針を刺して精子を入れる顕微授精(ICSI)という方法があります。
通常媒精(IVF)
専用の培養液の中で卵子を培養してから精子を振りかけます。その後は適切な環境に設定されたインキュベーター(培養庫)の中で受精を待ちます。
顕微授精(ICSI)
本来、卵子と精子は自然に受精させることが望ましいですが、その過程に問題がある場合は人工的に受精させる必要があります。これを顕微授精(ICSI)と言います。ICSIでは、1個の卵子に対して1個の精子を直接注入します。
レスキューICSI
通常媒精では、卵子に精子をふりかけてから18~21時間後に受精の確認を行います。そのため、受精していないと確認した時には、すでに卵子は老化しているため、そこからICSIをしても手遅れとなります。レスキューICSIは受精確認を通常よりも早い6時間後に行い、受精兆候がない卵子にICSIをし、受精障害を極力レスキューする方法です
精子融合補助授精法(ASFI)
IVF後の卵子透明帯(卵子を覆っている透明な膜)に結合している精子を、卵子の細胞膜に押し当てることで、受精が起こることを当院が世界で初めて報告しました(Hatakeyama, et al., 2020)。この方法では卵子の細胞膜を破らずに受精が可能なため、ICSIよりも変性率が低くなることが期待されます。
現在は下記の場合に実施可能です。
- IVFの6時間後に受精兆候の見られない卵子に実施
- 採卵時に未熟卵または変性卵も一緒に採取された場合(臨床研究として実施 2024年2月現在)
培養
卵子は特殊な培養液の適切な温度下で管理されます。培養液も卵子の質の維持、向上のために日々バージョンアップをしています。
胚移植
受精し成長した胚(受精卵)を長いやわらかいチューブで子宮に注入します(胚移植)。
受精後 2、3 日目移植(分割胚移植)
体外受精が始まった当初から行われている方法です。自然妊娠ではまだ胚が卵管にいる時期のため、本来なら移植に適した時期ではありません。しかし、初めての成功報告から 40 年ほどの歴史があり、この方法で初めて妊娠出産した女の子はすでに結婚し子供を授かっています 。
受精後 4、5 日目移植(胚盤胞移植)
体外受精が始まった当初は胚を 5 日目まで培養する技術がなく、胚盤胞まで培養が出来るようになったのはここ 20 年あまりです。まだ歴史が浅いことから子供にどのような影響が出るのか分かっていません。
自然妊娠では受精卵は約 5~6 日かけて卵管から子宮に入るため、胚盤胞移植は理に適っています。
また、5~6 日間生きている胚のグループからより良い胚が選別できるため、妊娠率は分割胚移植より10~20%高くなります。
日本産科婦人科学会の会告に従い移植胚数は 3 個まで可能ですが、多胎防止の理由から移植する受精卵の個数は原則 1個と致します。多胎は産科的にリスクが高くなってしまうため、現状の日本における産科医療の問題点も含めてご理解下さい。
凍結胚
移植しなかった胚や、副作用予防(『体外受精の副作用・安全性』参照)の為に移植しなかった胚は基本的に凍結させることが可能です。凍結胚はそれ以降の周期で融解し移植することができます(凍結融解胚移植)。
ほぼ凍結時と同様の状態に解凍されますが、融解後に受精卵の成長が止まってしまう事もあり、その場合は残念ながらその胚は移植することはできません。余剰胚が複数個ある場合には、別の胚を融解することになります。
出血(外出血、腹腔内出血)、腹痛、感染、アレルギー、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)、多胎妊娠、子宮外妊娠、麻酔による副作用などが上げられます。
体外受精の歴史は 30 年程度ですから、長期的な予後としてまだ判明していない事もあります。お二人で十分で検討をして頂き実施に踏み切って下さい。
通常は月に 1 個排卵されますが、治療の効率を上げるため、また体外受精で卵子の数を増やしたい時などに排卵誘発剤を用います。
体外受精の場合はあえて卵子を多く作りますが、時には反応が強く出てしまうことがあります。その際、女性ホルモンが同時に増え、卵巣が腫れるとともにお腹に水がたまり(腹水)、体内の血液の流れが悪くなります。重症例では腎不全や血栓症など様々な合併症を引き起こすことがあります。
発症が予測される方には、血液検査や超音波検査などを行い、経過を観察していきますが、場合によっては入院加療が必要となることもあります。
体外受精の一般的な妊娠率は女性の年齢によって違います。
移植あたり 20 歳代では 40%、30 歳代前半で 30%、30 代後半で 20%、40 歳では 10%ぐらいと言われています。妊娠率の低下は女性の年齢と共に卵の質の低下、空の卵胞の増加、原始卵胞の減少、染色体異常卵の増加などが考えられています。
当院の体外受精の成績は当院の治療実績の項をご覧下さい。
流産率は 10~20%程度です。
凍結保存していた胚を子宮に戻します。
移植時には排卵後と同じような着床に適した子宮内膜の状態に調整する必要があります。
凍結融解胚移植には 2 通りの方法があり、妊娠率は同等です。
日本産科婦人科学会は、生殖補助医療の現状把握のために施設登録を勧めています。登録施設は毎年の実施内容を報告する事になっており、当院でも必要な情報をまとめております。当院にてご妊娠された方々には、その後の妊娠・分娩経過を報告していただいております。ご協力の程、宜しくお願いいたします。
※この報告の際に、個人情報は確実に保護され個人を特定できることはありません。