着床不全
良好な受精卵(胚)を複数回移植しても胚が着床しないことを着床不全といいます。着床しないことの原因の殆どが胚の染色体異常と考えられています。それ以外の着床不全のリスクを確認する検査が着床不全検査です。採血や子宮鏡検査、子宮内膜組織を採取する検査などがあり、子宮因子、免疫因子、着床のタイミングなどを調べます。採血による検査と子宮鏡検査は同一周期で行うこともできます。
不育症
2回以上の流産・死産の既往がある場合、不育症と診断されます。すでに出産している子供がいる女性でも、2回以上の流産・死産の既往があれば不育症に含まれます。(化学流産や異所性妊娠は含まれません。)
原因は様々あり、胎児の染色体に異常がある場合や、母体側の血液凝固機能や抗リン脂質抗体に異常がある場合などがありますが、不育症に関してはまだ不明な点が多いと言われています。しかし、リスク因子を検査し治療することで、次回の妊娠で出産できる可能性が上昇することもわかってきました。
当院で行っている検査としては、子宮内環境の評価、ご夫婦・カップルの染色体検査、抗リン脂質抗体検査/凝固系検査、内分泌検査(甲状腺・糖代謝)、免疫の検査などを行っています。
一般外来で行っていますので、検査に関してご質問などございましたら担当医にお聞き下さい。
母体の問題
①子宮因子
②免疫の因子
③着床の窓の因子
④その他の治療
受精卵の問題
着床前診断(PGT)を参照ください。
着床の障害となりうる子宮内膜の状態です。子宮内膜ポリープ、慢性子宮内膜炎、帝王切開瘢痕部症候群などが考えられます。
子宮因子に関する検査
子宮鏡検査
内視鏡というカメラを用いて子宮内を観察する検査です。
子宮内膜炎検査(CD138)
子宮内膜を採取して、炎症のマーカーであるCD138陽性の形質細胞がどのくらいあるかを調べる検査です。慢性子宮内膜炎を診断またはその治癒を判断する場合に行います。
自費での検査となります。
子宮内フローラ検査
子宮内の細菌叢を検査し着床に適した細菌叢になっているかを調べます。
先進医療Aとして認定されている検査です。
子宮内細菌叢検査 (EMMA/ALICE)
子宮内の細菌叢を検査し着床に適した細菌叢になっているかを調べます。
EMMA/ALICEはERAtestと同時に検査可能です。
先進医療Aとして認定されている検査です。
子宮因子に関する治療
子宮内膜ポリープ・帝王切開瘢痕部症候群
帝王切開瘢痕部症候群
腹腔鏡下手術(当院から手術可能な施設をご紹介します。)
慢性子宮内膜炎
抗生剤など
受精卵(胚)が子宮に着床する過程において、母体の免疫反応は重要なプロセスです。
胚の半分は自分由来の成分、残りの半分は男性由来の成分で構成されています。
着床が成立するためには、半分自分ではないものを攻撃しないようにすることが必要です。
しかしながら、母体が胚に対する過剰な免疫学的拒絶の状態になっている事があります。この攻撃力が強いと、胚の着床や発育を邪魔してしまうことがあります。
その免疫を調整しているのが白血球という成分(ヘルパーT細胞)の一部から産生されるサイトカインです。どのようなサイトカインを分泌するかによってヘルパーT細胞の種類が分類(Th1、Th2、Th17、Treg)されます。
着床不全の方の中には、Th1/Th2が高値であることが報告されており、最近の研究ではTh17、Tregも関連があることが証明されています。
自然免疫を司るNK細胞も着床に関連している事が報告されています。NK細胞は白血球の仲間で、体内をパトロールし、異物を発見し攻撃をします。この細胞は抗体を介さずに免疫細胞そのものが直接攻撃することができます。着床の時期になると子宮内NK細胞の占める割合が増えることが示されており、着床や不育症への関連が示唆されています。
免疫状態が適度に調整されていることが着床と胚の発育には重要と考えられていますが、NK細胞活性が高い場合は着床不全を起こす可能性があります。
これらの免疫に対する理論は効果的な医療介入の潜在的な標的であることが示されていますが、まだ十分はコンセンサスが得られていないものもあります。しかしながら、当院ではこれらの理論を積極的に支持し臨床の現場に反映させています。
免疫因子に関する検査
採血を行い、ヘルパーT細胞(Th1、Th2、Th17、Treg)、NK細胞活性を調べます。
自費での検査となります。
免疫因子に関する治療
タクロリムスは免疫調整の作用があります。これを使うことにより受精卵に対する攻撃力を弱め、着床の手助けをします。
採血の結果、免疫の数値が高い方はタクロリムスの内服をお勧めしています。妊娠した後のフォローアップ採血も行い、内服量の調整を行います。
自費での治療となります。
NK細胞活性が高い場合、当院では漢方治療を第一選択として提案します。また、グルココルチコイド療法を行う事もあります。免疫グロブリン療法、イントラリピッド療法などが報告され、一定の効果が示されていますが、保険適応がなく高額になるため当院では行っていません。
受精卵を受け入れる時期(着床の窓)の調整が必要な状態です。
着床の窓が合っている
着床の窓が合っていれば受精卵は子宮内膜に着床します。
着床の窓がずれている
着床の窓がずれているときがあります。そうするとちょうど受け入れたい時期に受精卵がやってこなくて、着床しなくなります。
着床の窓の因子に関する検査
子宮内膜受容能検査(ERA)
Endometrial Receptivity Array(ERA) test という検査をします。黄体ホルモンの注射の後、子宮内膜の組織を吸引採取します。着床時期に発現する遺伝子を検査することにより、着床時期が合っているかを確認します。先進医療Aとして認定されている検査です。
着床の窓の因子に関する治療
着床の窓に一致した時期に胚を移植することで着床率が上昇するといわれています。検査の結果により、着床の窓がずれていた場合は着床の窓と移植時期を合わせるため、黄体ホルモンの注射や膣剤を始めるタイミングを調整します。
先進医療Aに認定されています。
ヒアルロン酸含有培養液
体外受精の治療経過で行う治療です。体外受精の移植時に、ヒアルロン酸を含む培養液を同時に注入することで着床を助ける効果が期待されます。保険での治療は可能ですが、2回目以降からの移植での適応となります。
子宮内膜スクラッチ法
体外受精の治療経過で行う治療です。子宮内に局所的損傷を与えることで局所の軽い炎症を誘起し、着床率を向上させる方法です。治療効果についてはまだ明らかではありませんが、先進医療に認定されています。
SEET法
体外受精の治療経過で行う治療です。胚盤胞凍結時にそれまで培養に用いた培養液を凍結保存し、凍結融解移植時の移植2日前に融解し子宮内に注入する方法です。培養液内の様々な物質が着床環境を改善する効果を期待した治療です。治療効果についてはまだ明らかではありませんが、先進医療に認定されています。
二段階移植法
体外受精の治療経過で行う治療です。2‐3日培養した初期胚をまず移植して、さらにその数日後に5-6日培養した胚盤胞を移植(二段階目の移植)します。一段階目の移植で子宮に着床の準備をさせることで、二段階目に移植した胚の着床を助けると考えられています。結果的に2個の受精卵を移植するので多胎になる可能性も上がります。先進医療に認定されています。
自己血小板由来成分濃縮物(PFC-FD)
胚が着床するためには子宮の内膜細胞が十分に存在する必要があります。子宮内の手術や操作により、通常の方法では子宮内膜の成長が緩慢で、なかなか厚くなりにくい場合があります。血小板由来因子濃縮液の凍結乾燥物(PFC-FD)を用いた治療は患者さん自身の血小板に含まれる成長因子を用いるバイオセラピーです。
PFC-FDを用いて子宮内膜細胞の再生を試みます。自費での治療です。
①子宮因子
②ご夫婦・カップルの染色体の因子
③抗リン脂質抗体/凝固系因子
④内分泌因子
⑤母体の免疫の因子
⑥その他(胎児の染色体異常、原因不明)
不育の原因となりうる子宮内の状態です。
・子宮内膜ポリープ
・慢性子宮内膜炎
・帝王切開瘢痕部症候群
子宮因子に関する検査
子宮鏡検査
内視鏡というカメラを用いて子宮内を観察する検査です。
子宮内膜組織検査
子宮内膜を採取して、悪性細胞の有無や、炎症のマーカーであるCD138陽性の形質細胞がどのくらい発現しているかを調べる検査です。
慢性子宮内膜炎を診断し、その治癒を判断する場合に行います。
自費での検査となります。
子宮内フローラ検査
先進医療(自費)での検査となります。
子宮内膜マイクロバイオーム検査(EMMA)/感染性慢性子宮内膜炎検査(ALICE)
先進医療(自費)での検査となります。
子宮因子に関する治療
子宮鏡下手術
子宮内膜ポリープ、帝王切開瘢痕部症候群
腹腔鏡下手術
帝王切開瘢痕部症候群
抗生剤
慢性子宮内膜炎
不育症のカップルに対して染色体の検査を行うと、約5%にいずれかの染色体の構造異常が検出されます。均衡型転座やRobertson転座などが有名です。採血で検査を行います。治療や方向性に関しては十分なカウンセリングを行い、方針を提案していきます。
血栓を起こしやすい環境は不育症と関連があります。
膠原病系の検査
膠原病は免疫異常が原因となって起こる疾患ですが、なかでも抗リン脂質抗体症候群は「抗リン脂質抗体」という自己抗体が体内で作られ、それにより血液が固まりやすくなる疾患です。血液が固まりやすくなり血管内に血栓が生じると、妊娠した際にも胎盤内の血管に血栓ができ胎盤循環不全となり流産を引き起こしやすくなると考えられています。(一部自費での検査になります。)
抗リン脂質抗体症候群は、最も有効な治療法が確立している不育症原因です。診断された場合には、膠原病内科と協力し、ヘパリンや低容量アスピリン併用療法を行っていきます。
凝固系の検査
プロテインC欠乏症やプロテインS欠乏症、第ⅩII因子欠乏症などが流産に関係していると言われていますが、まだよく解っていないこともあります。プロテインS欠乏症は後期の妊娠に影響がある可能性が示唆されています。妊娠後期異常の既往がある場合は検査する意味はあります。(自費での検査となります。)
凝固因子が欠乏することで血液が固まりやすくなり、血管内に血栓が生じます。その状態で妊娠すると胎盤内の血管にも血栓ができ胎盤循環不全となり流産を誘発すると考えられています。凝固系の検査で異常を認めた場合には、血栓予防のために低容量アスピリンを使用する事があります。(有効性についてはまだはっきりとしない部分もあるため、相談の上使用を検討します。)
様々な内分泌疾患は不育症との関連が示唆されています。
糖尿病
不育症に占める割合は低く、まだ不育症との関係に関して解っていないことが多い分野ですが、統計的に流産が多くなるとの報告があります。また妊娠後の合併症として糖尿病がある場合、母体だけでなく胎児の発育にも影響します。糖尿病内科と協力して治療を進めてまいります。
甲状腺疾患
甲状腺機能異常は、流産を含めた様々な不良な妊娠転帰と関連すると言われています。適切な量の甲状腺ホルモンが妊娠初期の絨毛や胎盤形成に関係します。甲状腺内科と協力して治療を進めてまいります。
受精卵に対する過剰な免疫学的拒絶の状態です。
母体の免疫因子に関する検査
受精卵(胚)が子宮に着床する過程において、母体の免疫反応は重要なプロセスです。
胚の半分は自分由来の成分、残りの半分は男性由来の成分で構成されています。
着床が成立するためには、半分自分ではないものを攻撃しないようにすることが必要です。しかしながら、母体が胚に対する過剰な免疫学的拒絶の状態になっている事があります。この攻撃力が強いと、胚の発育を邪魔してしまうことがあります。
その免疫を調整しているのが白血球という成分(ヘルパーT細胞)の一部から産生されるサイトカインです。どのようなサイトカインを分泌するかによってヘルパーT細胞の種類が分類(Th1、Th2、Th17、Treg)されます。
不育症の方の中には、Th1/Th2が高値であることが報告されており、最近の研究ではTh17、Tregも関連があることが証明されています。
自然免疫を司るNK細胞も不育症に関連している事が報告されています。NK細胞は白血球の仲間で、体内をパトロールし、異物を発見し攻撃をします。この細胞は抗体を介さずに免疫細胞そのものが直接攻撃することができます。着床の時期になると子宮内NK細胞の占める割合が増えることが示されており不育症への関連が示唆されています。
これらの免疫に対する理論は効果的な医療介入の潜在的な標的であることが示されていますが、まだ十分なコンセンサスが得られていないものもあります。しかしながら、当院ではこれらの理論を積極的に支持し臨床の現場に反映させています。
母体の免疫因子に関する治療
タクロリムス
タクロリムスは免疫調整の作用があります。これを使うことにより受精卵に対する攻撃力を弱めることができます。
採血の結果、免疫の数値が高い方はタクロリムスを内服して頂きます。
妊娠した後のフォローアップ採血も行います。
自費での治療となります。